7:『「お手本の国」のウソ』執筆者が勢ぞろい!

今回は、新書で今話題の本「お手本の国」のウソ (新潮新書)の著者の皆さんにお集まりいただきました。このコーナー始まって以来、おおぜいの方々が一度に参加ということで、どんなお話が伺えるかとても楽しみです。七名の著者のうち、五名が「海外在住メディア広場」の登録ライターです。

この本では、日本人が理想とする「お手本の国」で、そのことがらが本当にうまくいっているのか、各国在住のライターが検証しています。

  • ドイツの戦争責任問題
  • フィンランドの教育法
  • イギリスの二大政党制
  • ニュージーランドの自然保護
  • フランスの少子化対策
  • アメリカの陪審制
  • ギリシャの観光政策

伊藤雅雄さん 靴家さちこさん 内田泉さん 有馬めぐむさん 田口理穂さん

伊万里穂子さん 中島さおりさん
(ゲスト参加ありがとうございます)

参加者:田口理穂さん(ドイツ)有馬めぐむさん(ギリシャ)靴家さちこ(フィンランド)伊藤雅雄さん(英国)内田泉さん(ニュージーランド)中島さおりさん(フランス)伊万里穂子さん(米国)

【やほい】
まずは皆さま発刊&快調な売れ行きともにおめでとうございます。ちまたから聞こえてくる数々の書評は興味深いものが多いですし、なによりタイトルを伺った瞬間から「読みたい!」と思いましたので、本が届いたときにはわくわくしました。

各国の「日本が見習うべき」というお手本の国のイメージは、実は、日本のメディアにより、いつのまにか創り上げられた幻想というか、思い込みといった側面もあるということが、この本の出現により示されたと思います。随所でうなずきました。

では、せっかくの機会なので私の聞きたいことを質問させていただきますね。

まず、皆さんに伺いたいのですが、この本が出る前までは、今お住みの国々で、日本で伝えられているイメージとのギャップを、常々感じていたのでしょうか?また、そのギャップにイライラすることなどもあったのでしょうか?

戦争責任にカタはついていると思われがちなドイツの理穂さんいかがですか?

【田口(ドイツ)】
日本にいるときは、ドイツは街がきれいで人々はきちんとしているというイメージがありました。しかしドイツに来てみると、ごみは日本より落ちているし(ただし頻繁に掃除をしているのあまり目立たない)、人と約束しても10分くらいの遅れは当たり前、中には30分遅れてきても謝りさえしないなど、日本の感覚と違うことがわかりました。「勤勉なドイツ人」というのもかなり個人差があります。

戦後処理については、カタがつくどころか、いまださまざまな取り組みがされていることに驚きました。戦後処理はカタがつく、つかないという次元の問題ではなく、人々が必要があると思ったところでずっと続けられていくものだと思いました。例えば「この工場でいったい誰が強制労働を強いられていたのか」を調べることは誰でもできます。

この国だけは手本にしてはいけない(?)、と思われているかもしれないギリシャのめぐむさん?

【有馬(ギリシャ)】
ここ数年、ギリシャは経済危機報道ですっかり有名になってしまいました。ギリシャは改善されるべき点が多くある国ですが、同時に美点もたくさんあります。昨年は一時帰国する機会が何度かあり、テレビでギリシャ情報を観ていると、きちんと取材した報道番組もありましたが、中には現地の常識や慣習とかけ離れているものもありました。この情報化社会を持ってしても、内容に何十年単位の“時差”があるようなものも…。今時、アテネの会社員でシエスタをしている人はいませんし、労働時間が極端に短いようなこともありません。誤解がマイナスイメージを増幅させている気がしたので、在住者の視点でギリシャのよいところも知っていただきたいという気持ちがありました。

またアテネの都心の一部で起きているデモなどの映像が何度も繰り返し流されることにより、あたかもギリシャ全土が、ずっと混乱状態にあるような印象を与えてしまうのですが、デモは短時間、局所的に行われるものです。昨年はこれらの騒動が日本でかなりクローズアップされたので、ギリシャへの旅行を控えてしまった人もいらしたようですが、実際には観光客数は過去最大となり、収益は10%もアップしていました。

教育のお手本の国と言えば、フィンランド!ですね?

【靴家(フィンランド)】
私はもう、教育はもちろん、何に関してもことフィンランドとなると不勉強ですみませんというスタンスだったものですから、「フィンランドメソッド」という名前を日本で初めて聞いたときにも、また自分の無知からかと驚き慌ててしまいました。しかし、夫の姉が小学校の先生で、フィンランドの教育に関して疑問があれば何でも教えてもらっていたのに、義姉からは「フィンランドメソッド」って一度も聞いたことが無いなぁと気がついてから、私はますますフィンランドの教育に興味を持つようになったのです。しかし「日本で伝えられているイメージとのギャップ」を本当に実感として書けるようになったのは、長男が就学して、ある程度学校の様子がわかるようになった一年半前ぐらいでした。それまでは確かに、真実を知りたくて、うずうずもんもんとしていましたね(笑)。

今や、地球上に全うな政治機能を持つ国があるのかさえ疑いたくもなる昨今ですが、二大政党制のお家元、英国で何を感じていますか?

【伊藤(英国)】
そもそもイギリスの二大政党制が日本の政権与党の「お手本」として考えられていたという事実を知ったことが、今回の企画に参加しての最大の驚きでした。本家のイギリスでは、既存の二大政党のいずれもが過半数を得られていません。だったら「政治の迷走化」でも起こりそうなものですよね? ところがさすが議会政治発祥の地だけあって、腰砕けになるどころか、国民に不人気な政策を次々と実行。財源が足らないと見るや、すかさず 消費税を上げてしまうあたりは溜飲が下がります。先には、「ギリシャ救済は国のためにならない」とEUで唯一反対に回ったことには正直驚かされました。ギリシャが怒って、「ロンドンになんて聖火を送らない」なんていう事態にならなければいいですけど……。

自然保護大国として知られている、ニュージーランドでは、どうですか?

【内田(ニュージーランド)】
私がニュージーランドに行った理由のひとつが、「自然破壊大国」の様子を自分の目で見てみたいということでした。ニュージーランドはとても人間が住みやすい国です。しかし、ほんの千年ほど前まで全く人間は存在せず、ここ二百年で森が一気に農地に変わっていった。それはそれは、効率的な「開発」だったわけです。でも、日本人の観光客のほとんどは、そうしたことに思いを巡らせることなく、「わあ、羊だ!」と喜んで帰っていってしまう。なんとか、開発の陰で絶滅に追い込まれているもとからいる動物たちのことを知ってもらいたい、といつも思っていました。そして同時に、猛反省したニュージーランドがいかに国家を挙げて自然保護に取り組んでいるか、ということも。ニュージーランドの事例は、私たち日本における「開発」と「保護」のあり方を考える上でも大切だと思いますので。

国策として少子化問題を乗り越えた、と思われているフランスではいかがでしょう。

【中島(フランス)】
別にいらいらすることはありませんでしたが、事実が不正確に伝わっているなと思うことはありました。

フランスでは、大々的な出生率アップのためのキャンペーンが張られたというような事実は、近年においてはそんなにないのです。ただ、今の日本のような、あるいはそれ以上に少子化が心配されて「国策」として出産奨励策が取られた時期はあります。それは、普仏戦争後から第二次大戦前後の頃でした。

日本でフランスの「少子化対策」が紹介されるときに、育児手当のような、戦前に導入された古い政策に陽が当たってしまう。子どもを持つ家庭に金銭補償をすること自体は良いことだとは思いますが、それは出生率アップの決め手にはならないなあと思いました。

それと、個人的に一番、気になったのは、「出生率が高いのは婚外子が多いからですね」と言われたこと。一般に、「非嫡出子差別がないので婚外子が生まれやすく、中絶が避けられるので出生率が高い」と考えられているようです。でも、それは非嫡出子差別のために婚外子が生まれにくいという日本の事情を投影しているだけで、フランスでは婚外子の出生も多いですが、中絶もとても多いんです。婚外子が多いのは、「差別がないからシングルでも産む」というよりも、若い人は結婚する前に同棲を始めるのが絶対的なマジョリティだからです。結婚する前に子どもが生まれちゃうのですが、その後結婚するというケースがかなり多いです。

国民主権で人を裁くことこそ民主国家の表れという部分は理解できますが、アメリカでその現場にいて、いろんな側面を目の当たりにしていらっしゃる伊万里さんいかがですか?

【伊万里(米国)】
日本では裁判員制度の開始はそんなに歓迎されなかったと聞き、ああ、やっぱりな、と、なんで始めてしまったんだ!!と思いました。アメリカでは当たり前の国民参加の裁判ですが、いいことばかりではありません。むしろ問題点のほうが多くなってきているのでは、と思います。

日本では今後の「民族の多様化」という点は移民大国であるアメリカと違ってそんなに心配する事ではないとは思われますが、これからいろいろと綻びが出てくるのでは。。。

【やほい】
みなさんどうもありがとうございます。ここまで伺えば、まだ本をお読みになっていない方も、ざっと、本の中身が推察できるのではないかと思います。それぞれの方が取り上げているテーマはひとつなのですが、そこからお国柄がよくまぁこれだけ浮き彫りになったものだと感じました。まさに、着眼点が鋭いのだと思います。たいへん興味深い内容ですのでまだお読みになっていない方は是非お手にとって見て下さい。

それでは、次の質問です。今回は『「お手本の国」のウソ』ということで、真似してもダメよっという裏側を知らせてくれましたが、生活者の目で見て、こここそ、お手本にしたらいいのに、と思うようなことはありますか?

【田口理穂さん(ドイツ)】
ドイツの脱原発、そして国として再生エネルギー推進をしていこうという姿勢は見習う価値があると思います。2000年に再生エネルギー法を定め、風力、水力、太陽光、地熱、バイオマスなどの再生エネルギーを固定価格で20年買い取ることを法的に保証しました。これにより投資の対象となり、技術開発が進み、2011年には電力の2割をまかなうまでに伸びました。

このように法的枠組みを作ったのは画期的で、ドイツを手本に約50カ国で同様な法律ができたそうです。ソーラーパネルを自宅の屋根につけると確実に採算が取れ、節約につながるのでありがたいですね。この分野の技術が進んでいる日本でも法的整備をすれば、ぐんと伸びると思います。

【靴家さちこ(フィンランド)】
フィンランドであれば、合理性が挙げられるかと思います。例えば、冬の間雪に埋もれて使えない学校の校庭をトラクターで整備し、散水車で水を撒けば、一晩で野外スケート場が出来上がります。この整備にかかるお金は税金からねん出し、無料で市民が通いたい放題。白夜の反動とも言うべき暗さに包まれる冬に体を動かすことは誰にとっても重要なことなので、この税金の使い方に意義を唱える人はいません。日本でも消費税を引き上げて福祉国家を目指しつつあるようですが、是非どこにどれだけのお金が使われているか、情報を透明に保って、国民の誰にとってもありがたい公共サービスを獲得していって欲しいと思います。

【伊藤雅雄さん(英国)】
うーん、日本がイギリスを手本にしていいことなんてあるんですかねえ?

今回の企画を進めていて、日本はアメリカとは仲がよいことになっていますが、公益事業では割とイギリスを模範にしようとしている部分があるようですね。たとえば、身近なところでは、健康保険料削減のために英国で行われている家庭医の制度を日本に応用しようとか、消費税の増税に当たり、食品などの生活必需品は低税率にしようとか、そんなメソッドは、たぶん民主党がイギリスの制度をお手本にしていると思いますね。

【内田泉さん(ニュージーランド)】
会社の採用基準、でしょうか。日本だと、新卒でなくては会社に入れない、しかも大学で何をやっていても大学の名前さえあればオッケーというのが普通ですが、ニュージーランドでは入社条件が全く違います。何を学んできたか、そして面接が何よりも重視されていますし、大学を卒業後に数年ぶらぶらしていても、それがハンディになるようには見えません。

若い頃には「自分が何をやりたいか」がまだはっきりしないものです。ニュージーランドの人は、高校を出てから数年バイトや旅をして、それからやりたいことを見つけて大学に入ったり、大学を出てから海外で力試しをして、また国に戻ってきたり、という動きをするのが普通です。自分のレールは自分で敷く、ということでしょうか。こういうことが日本でもできれば、ずいぶん学歴競争社会、変な派閥、未熟な社会人などが減るのになあ、と思います。

【中島さおりさん(フランス)】
フランスで出生率が高いのは事実です。フランスではこれを女性の就業率の高さに結びつけるのが常識なのですが、そういう認識がなかなか日本の人には共有されないようです。女性が働きながら子どもも育てられる環境ができれば、「仕事か子どもか」で子どもを産まない選択をする女性は必ず減ります。共稼ぎで子どもが育てられれば、夫の収入が低いから子どもを持つのを躊躇する必要は減ります。離婚しても自分で育てられる経済力があることも産むハードルが低くなると思います。

それから、婚外子の多さにも反映している同棲、事実婚ですが、結婚も含めてフランスと日本では男女の結びつきの形が異なると思います。フランスの若年層は7割がカップルで暮らしています。日本はシングル率が非常に高い。これでは子どもは生れません。経済的また心理的に、若い男女がいっしょに暮らせる社会をつくるように考えたら、出生率は上がるだろうと思います。この本の中ではその辺りのことを書きました。

【伊万里穂子さん(米国)】
久しぶりに日本の求人広告を見てびっくりしたのが、性別や年齢を限定しての求人ということでした。年齢差別や性別の差別などアメリカではもちろん違法です。もちろん雇う方の「こういう人が欲しい」という気持ちは分かるのですが、

少しはアメリカのように「みんなに公平にチャンスを与える」という姿勢は見習ってもいいと思います。日本は公務員の求人も「昭和何年生まれ(今はもう平成何年生まれ、ですかね)以降の者」ってすごい限定してますから、驚きです。あとは履歴書の写真は必要ないと思います。アメリカの履歴書にはなんで写真がないんだろう、と思いましたが、「なんで写真がいるの?モデルのオーディションじゃあるまいし」とアメリカ人の夫に指摘され、あ、そうか。と。。

雇用均等法とか、確か日本にもあったような気がするのですが、やはりアメリカに比べると遅れている気がします。

ギリシャのめぐむさんは、本の中ですでにその切り口でしたので、逆に、お手本にすべきではない点をお願いします。(笑)

【有馬めぐむさん(ギリシャ)】
ギリシャは民間企業で働く人々、特に旅行業界はこの本に書かせていただいたとおり、とてもがんばっていると思いますが、政治はおそまつですね。数十年に渡って、二大政党を中心に、世襲の多い特権階級的な政治が繰り広げられてきました。そして大企業や富裕層を優遇したり、公務員を増やしたりと、八方美人的な政策が施行されてきました。いわば国内事情ばかりを優先させて、国際的な戦略を怠ったために、いまその煽りが経済危機として、国民にのしかっているとも言えます。国民も長期的な視点で物事を見ず、目先の利益に飛びついてきた部分もあると思います。政治舞台に優秀なリーダーがいないので、まだまだ混迷は続きそうです。日本も次元は違えど、いろいろな問題を抱えているので、他人事ではない部分もあると思いますね。今後も両国を見つめながら、ギリシャがどのように問題を解決していくかを見守りたいと思います。

【やほい】
なるほどですね。どこの国にも良い面悪い面があるのは当たり前といえば当たり前ですが、日本の内側からの「隣の芝は青い」がごとくの情報に惑わされないよう、今後も皆さま方には日本の外に住む日本人として「ホントのところ」を伝えて下さることをおおいに期待しています。

今日はどうもありがとうございました。

「お手本の国」のウソ (新潮新書)