『旅に出よう』近藤雄生著を読んで/やほい

旅に出よう――世界にはいろんな生き方があふれてる (岩波ジュニア新書)
近藤 雄生
4005006531

とても読後感の良い本でした。

これから世界を見たいと思う人、自分の夢をどう実現しようかという迷いのある若者にお奨めです。世界のなかの今の自分の位置づけを見極めるためにも役立つと思います。全体を通したエピソードのどれにも、著者の伝えたいメッセージがこもっていて、共感を呼ぶ内容でした。この読者ターゲットを中高生に絞っているあたりにもさらにエールを送りたいと思います。

著者の体験を読むことで、日本的な価値観が、絶対的、普遍的、また不変的なものではないことが、日本の外に出たことのない若者にも手に取るようにわかってくることでしょう。そして、グローバルな目で見れば、人の生きかたに枠などないことが見えてくるかもしれません。

たとえば、オーストラリアでイルカの保護のボランティアをする著者が、次の章では、インドネシアの捕鯨村の様子を伝えていますが、同じ「イルカ」にスポットをあてながら、国のちがい、文化のちがいを浮き彫りにすることで、「イルカの在り方の違い」が明確になります。特に、捕鯨に関してはいろんな論争がある昨今ですが、これは「論争」そのものに意味がないことを突きつけてくれるようなエピソードです。

ものの見方が必ずしも「正解」「不正解」で解決できないことは、今の地球には確実に存在します。著者にそのつもりがあるかないかはわかりませんが、ひとつのバリューにしがみつき他を優劣、善悪で判断を下すことに警鐘を鳴らされたような気さえします。いろんな違いを「理解し受け止めること」は容易いことではありませんが、平和のために、世界にはあきらかな「違い」が存在することを知ること、知ろうとすること、それをお互いにリスペクトすることがいかに大切かというメッセージを残してくれます。

また、著者が旅先で出会った、自分らしい生きかたを実践している日本人の紹介をしている部分にも、とても好感が持てます。自分がしたいことを追求し、その目標に向かうために努力している人に著者が出会い、「その人たちのことを伝えたい気持ち」が、著者の目標である「書くこと」に繋がり、こうしてカタチとなったこと、心から拍手です。