出合えてよかった本『まだ見ぬあの地へ 旅すること、書くこと、生きること』

『まだ見ぬあの地へ 旅すること、書くこと、生きること』 (近藤雄生 著)

心の中があったまり沸いています。

読書というのは、大いに読むタイミングにも左右されるものです。わたしの読書センサーが過敏な状態にあるために、いろんなシーンにおいてこみ上げるものがありました。

近藤雄生さんの書かれたエッセイ本は全て読んでいます。それどころかご夫婦が旅をしていたころに現地から発信していたブログも読んでいました。今からもう十数年も前のことです。当時はリアルタイムでしたので、もっとリポートに近い内容だったと思います。地球の裏側から発信される「見知らぬ人の旅」を米国の片田舎でそっと覗き見しては、ハラハラ、ドキドキしていたものです。

ゆえに、あのとき見ていた体験が、こんな形で近藤雄生さんという人間の素になっていることに興奮します。

本の中には筆者の誠実さと謙虚さも滲み出ています。5年間も夫婦で世界を放浪するなんて、誰にでもできることではない偉業ですが、「どうだすごいだろう」といった驕りは微塵もありません。それどころか、格好悪さもさらけ出しているところに好感が持てます。

散りばめられているエピソードの中には数々の響くメッセージが込められています。

「旅は決して、帰ったら終わりではない」

そのとおりだと思います。

つい最近、伴侶を亡くしたわたしにとっては、身に染みるともいえる言葉でした。日常の暮らしの中で、ふと思い出すことといったら、旅の中でのシーンがなんと多いことか。「あー、あそこで、あんなこと言ってたな」とその地の景色が鮮明に浮かび、言葉が旅の中の思い出からこぼれてくる瞬間がいかに多いか……ということを感じているからです。

まさに、この本の近藤さんが言いたいこと、伝えたいことはそういうことなんだと実感しました。

人は経験したことでできています。旅はただ美味しいものを食べて観光することだけではありません。旅は自分を作っていくためのインプットの手段でもあり、それを記すことは、体験したことを考え、自分と向き合い、取り入れていく作業なのだと思います。そうして月日とともに熟成されてこの書物が生まれた気がしています。

「人生が有限である」というフレーズも、今のわたしにはおおいに刺さりました。

生きている間に、なにを見て、なにを考えて、どう自分にとりいれていくかが、人生なんだと強く思っているところでこの本に出合えたからです。たくさんの喜怒哀楽に満ちたエピソード持つことが、人生の豊かさに繋がるということを強く感じることができる本でした。(by やほい)